認知神経科学的手法(心理物理学・脳機能イメージング法)を駆使して, ヒトのこころに関する様々な問いに対して取り組んでいます。 共同研究を含めると, 研究範囲は経済学から医学に至るまで多岐にわたりますが(詳しくは業績一覧を参照)、多感覚処理や社会認知の研究に重点を置いています。これまでに分かったことを下記に説明します。
1. 触覚の機能-物体の認識のメカニズムカバンの中に手を入れると, その中の財布や本などをすぐに当てることができます。このように触覚は目の届かない場所にある物体の認識に優れています。ではこの機能は脳の中でどのように実現されているのでしょうか?そこからわかる触覚と他の感覚との共通点、相違点はなんでしょうか?
これまで私たちは視覚のメカニズムを参考に、粗さや形のような物体の属性は別個に抽出され、個別に抽出された情報が統合されることで物体が識別されると予測し、研究を行ってきました。この予測を支持する結果として、属性ごとに脳活動パターンが異なるを示したり(Kitada et al., 2005 NeuroImage; Kitada et al., 2006 Journal of Neuroscience),視覚にもっぱら関わると考えれてきた領域の一部(高次視覚野)が、触覚による物体のカテゴリの識別に重要な役割を果たすことを明らかにしました(Kitada et al., 2009 Journal of Cognitive Neuroscience; Kitada et al., 2013 Frontiers in Human Neuroscience; Kitada et al., 2014 Journal of Neuroscience)。
これらの問題に関わる手がかりを得るために触覚だけでなく視覚を含めた多感覚の研究も推進しています(Kitada et al., 2006 Journal of Neuroscience; Kitada et al., 2014 Neuropsychologia等)。これらの成果の一部は外国の脳科学の教科書にも紹介されています(Nolte's The Human Brain, Mosby出版, pp. 565)。
2. 触覚の機能-弁別的触覚と感情的触覚また触覚はまわりのものを認識する感覚であるだけでなく、ものとの接触からその心地よさや不快さを知覚する感覚です。ではヒトはどのような物理的性質の物体を快や不快とするのでしょうか?どうして快や不快と感じるのでしょうか?生得的に感じるようにできているのでしょうか?さらに脳ではその快や不快さはどのように処理されているのでしょうか?
温度の識別性と感情性に関してはすでに知見が良く知られています。それに対し私たちは粗さと不快さの関係性を明らかにしました(Kitada et al., 2012 Perception). 現在は柔らかさの関係について研究をを対象とした研究を行っています。また素材の心地よさという点から、ベルベット錯触に関する研究を名古屋大学の大岡先生・Rajaei先生、静岡理工科大学の宮岡先生と推進しています。
3. 非言語コミュニケーションのメカニズム相手の表情や仕草を読んだり、真似したり、ボディコンタクトを行ったりなど、私たちの生活において言葉を使わないコミュニケーション(非言語コミュニケーション)は重要な役割を果たします。これらの処理は脳の中でどのように行われているのでしょうか?
相手の動作を理解するためには脳の特異的なネットワークが関与するといわれています(Action-observation network)。このネットワークの一部である視覚野が他者と自分の動作の一致性を検知することに関わっていることや(Okamoto Kitada et al., 2014 Neuroscience Research)、そのネットワークの一部が視覚経験に関係なく形成されること(Kitada et al., 2013 Frontiers in Human Neuroscience; Kitada et al., 2014 Journal of Neuroscience)を明らかにしました。
またAction-observation networkの一部としてmentalizing networkというものがあります。これは他者の意図の忖度に重要とされていますが、このネットワークに含まれる脳領域の役割について、顔や涙の統合という観点から研究を行っています(Takahashi Kitada et al., in press)
さらに他者とのボディコンタクトが、不快な刺激を観察しているときの脳活動を抑制することを発見しました(Kawamichi Kitada et al., 2015 Frontiers in Human Neuroscience)
上記の問題に関わる研究成果(研究業績参考)を活かして、下記の応用研究につなげていきます。
4. 障害者に役立つ研究へ
視覚障害者や発達障害者の役に立つことを目指して、研究を展開させます。例えば視覚障害者であれば、目が見えなくなることが、脳にどのような影響を及ぼすのかを明らかにし、視覚障害者への支援において、触覚の機能がどのようにお役にたてるのかを考え、提案していきます。
長期的な目標は, 心理物理学・医学・支援工学など他分野との緊密な連携をとり, デザイン・その性能と原理の理解とバリデーションを行い, 社会実装にまで結びつけることです。理想は高価で壊れやすいものではなく, 点字や白杖のようなこれまで当たり前に使われてきたもののような、シンプルなものを開発するのが夢です。
いままで世界に先駆けて発見したことは、①先天盲でもの人がどんな基本的な感情を表出したかを、目の見える晴眼者と同じ程度に識別できる(Kitada et al., 2013 Frontiers in Human Neuroscience) ②自閉症スペクトラム者は定型発達者に比べて、真似をされたと気づくときの活動が減弱する(Okamoto et al., 2014 Neuroscience Research)、こと等です。
5. ものづくりに役立てられるのか
認知神経科学はものづくりにどのように役立てるのでしょうか?特に脳機能イメージング法がこれからのものづくりに重要な役割を果たせるのかどうか?、果たすための最適な手法は何か?について研究を行います。
[現在のプロジェクトの共同研究者]
河内山隆紀 先生 (ATR BAIC),
Rajaei Nader先生, 大岡昌博 先生(名古屋大学),
宮岡徹先生(静岡理工科大学),
宮脇陽一 先生 (電気通信大学),
荒牧勇 先生(中京大学),
楊家家 先生, 呉景龍 先生(岡山大学),
山田克宣 先生(近畿大学),
田中沙織 先生 (ATR),
川道拓東 先生(群馬大学),
岡本 悠子 先生, 小坂 浩隆 先生(福井大学),
佐々木章宏先生(理研) ,
坂本真樹 先生(電気通信大学),
Dianne T.V. Pawluk 先生(Virginia Commonwealth University)
等...